022

「…前田?」
スラィリーの漬物をかじりながら、ぼーっとドアラの手元を見て、こいつ箸の持ち方が悪いな…、などとぼんやり考えていた永川は、突然質問を投げかけられて反射的に顔を上げ、問われた名をオウム返しした。
「前田って言われてもなあ…、どこの前田さん」
前田といったら広島ではそれで通じるかと森野は思っていたが、たしかに、言われてみればそんなはずはない。
「有名な武芸者で、若いころは傭兵としてあちこちの戦場で活躍した人だ」
「んー、いたかなあ、そんな人…」
箸の先を軽く口にくわえたまま、永川は思案した。かつて傭兵として活躍したのなら現在も軍人だろうか、それなら今は広島にいないのでは?
「…前田智徳、というんだが…、」
「…とものり?」
その名を聞いて、宙をさまよっていた永川の視線が動きを止めた。
「もしや、心当たりが?」
「…うちのお師匠さん?」
「なんだとッ!?」


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