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広島は近年こそ隣接する西宮と政治的な緊張が続いているとはいえ、過去の経験から平和を愛する中立都市を宣言しており、もう長いこと戦闘らしい戦闘が行われていない。
軍も存在するにはするが、災害時の救助活動などに動員されるのみで、実戦に出る機会はなく、
つい最近も、腕に覚えのある軍人がひとり退役し、名を上げる機会を求めて西宮へ移って行ったらしいというのは、名古屋でも有名な噂だ。
つまり、広島には、その気になれば都市間紛争において戦局を大きく動かせるほどの、例えば神通力のようなものの持ち主が仮にいたとしても、
それが表立って目立ちにくいという事情がある。
永川とて、腕利きの猟師としては業界で名が知れ渡っているが、それが他都市ならば軍で活躍できるほどの実力者とはもちろん知られていない。
そう、知られていないだけで、広島にはこの永川に準ずる力を持つ者が数多く存在しているのかもしれないのである。
そんな中で今まで野放しにされているような強敵に挑まねばならないことを知り、森野はただ、
いつの間にか傍まで来ていたドアラの呼びかけに応えることもできず、その場に立ち尽くしたのだった。
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