014

永川は呆然とした。ドアラの発音を人間が聞き分けることはできない。それは例えて言うなら、火星にタコはいないというのと同じくらいの常識だ。
現代でもなおその常識を受け入れず、日夜研究に励んでいるものがないとは言わないが、学術的に否定されているものであり、ごく一部のカルトな集団を除けばマジメに可能性を信じるものはいない。
そう。いないはずなのだ。
しかし…、幸いにして永川は職業柄、マスコットモンスターに関することだけは博識であり、その胸には心当たりがあった。
「…あんた、名前は」
「ああ、名乗っていなかったか。これは申し訳ないことをした、どうか非礼は許されたい。俺は森野だ。名古屋陸軍大尉、森野将彦」
「……森野、だって?」
「知っているのか?」
「知っているも、なにも…」
その名は遠く広島まで届いていた。ドアラ語を自在にあやつり、ドアラたちとの完全な意志疎通を可能とする希代のドアラマスター。
ゆえにドアラとのコンビネーションは完璧であり、また本人も軍の総指揮官から直々に厳しい訓練を受け、その実力たるや凄まじく、竹槍で戦闘機も落とすほどの武闘派と聞く。
そんな人物となら、もしかすると、あるいは…。
「…少し、考えさせてほしい。宿は…、あるにはあるが、この時季だ、狩猟客で埋まっていると思う。ここでよければ、泊まっていってくれ」
そう言うと永川は奥から布団を出してきて、それを無言で指差し、横になるよう森野へ薦めると、
自分は脇に架けてあったハンモックへ潜り込んで、電球の明かりを切ってしまった。
永川が突然態度を軟化させた理由が森野にはよくわからなかったが、ふと見ればドアラはすでに土間へ転がって寝息を立てており、
また折角の好意でもあることなので、そのまま甘えることにした。


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