013

―――「ضلطكزىغ」
暫く続いた緊張、そして沈黙を破り、突然、ドアラが声を出した。
それは鳴き声というよりは何か言葉を喋っているようでもあり、よく聞けばそうでないようでもある。
『ドアラたちは種族の独自の言語を持っている』という基礎知識がなければ、とても喋っているようには聞こえないかもしれない。
永川もドアラの声を聞くのは初めてだった。その声色はどうにも表現しがたいが、あえて例えるなら滑舌の悪い九官鳥に少し似ているような気がする。
ああ、本当にドアラは喋るのか…、ピロピロとしか言わないスラィリーとは違うんだな、と永川はぼんやり思ったが、
その正確な音を聞き取ることは人間には不可能、と古くから言われているので、結局理解できないという点ではスラィリーと同じか、とも思った。
この時点で永川はまったくその程度の感想しか持たなかった。しかし彼が本当に驚くことになるのは、まさに、この直後であったのだ。
たった今なにかを喋ったドアラのほうへ森野はおもむろに振り向くと、そして…。
「بکك ةءرق٦ف?」
同様の音声が、今度は森野の口から発せられた。一瞬、聞き違えたかと永川は思ったが、やはり間違いなく、それは森野が発したものだった。
一体それがどういうことが、永川が理解するのには少々の時間を要した。その間に、またドアラが何事かを森野に向かって喋る。
そののち、森野がふたたび向き直って言うには…。
「すまないが、こいつがそろそろ眠いんだ。また明日に、今度はお前を納得させられるような具体的な作戦を持ってここに来るから、
 今日のところは失礼したい。どこか、この近辺で、借りられそうな宿はないだろうか」


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