002
森野が目的地に着いたときには、辺りはすっかり暗くなっていた。
田舎町は仕舞いが早い。皆寝静まってしまったかのように、人っ子ひとりいない道を、森野は地図を片手に急いだ。
やがて道は細くなり、寒々とあたりと照らしていたまばらな街灯もいつしかなくなり、月光を頼りに辿りついたそこは…、
三次の町が一望できる、見晴らしのいい山麓に建てられた、木造の小さな家だった。
ドンドンと木戸を叩くと、間延びした返事が聞こえ、ほどなく一人の男が森野を迎えた。
「お前が、永川か」
「…そうだが、あんたは――」
言いかけて、永川と呼ばれた男は言葉を止めた。森野の背後に控える、群青色の存在に気がついたのだ。
「――そこにいるのは、ドアラ」
広島市街では好奇の目を向けられるばかりだったその生き物の名を、永川は違いなく言い当てた。
「さすがに、知っているか」
「とすると、あんたは、マスター…?」
「恥ずかしながら、地元…、名古屋では、そう呼ばれている」
「ドアラマスターが、わざわざこんな季節に、こんなとこまで。一体何の用で…」
「腕利きのスラィリーハンターがいると聞いて来たんだ。頼む。力を貸してほしい」
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