001
時は2007年、晩秋、今年もまたスラィリー狩りの最盛期を迎えて活況呈する広島の街へ、一人の男がやってきた。
男は目立つところに大きな銃をひっさげていた、が、今のこの季節、広島の街では珍しくないことだった。
ハンターは勿論、女や子供も万一のために銃器を携帯しておくのが、この街の晩秋においては常識である。
なにしろ銃の所持が珍しくないくらいなので、男自身にはそれ以上、とりたてて変わったところはなかった。
よく鍛えられた筋骨逞しい体格も、スラィリーハンターとしてはごく平均的な容姿にすぎない。
しかし、彼の連れていた生き物は、あまりに珍妙すぎて人目をひいた。
身の丈は人間ほどもあり、群青色の体毛、巨大な頭、その頭の両側に、これまた巨大な耳がついている。
男の持つ大型の銃を見れば、彼が旅の途中の通りすがりでなく、スラィリー狩りを目的としていることは誰の目にも明白だ。
地元広島では、スラィリー狩りの供といえば大概、ゴールデンレトリバーと決まっている。
誰が決めたというわけではないが、長い歴史の中、たくさんの尊い犠牲から得られた教訓が、
スラィリー狩りに際してはその犬が最も優れていると証明しているのだ。
しかるにあの男は、危険なスラィリー狩りへ、あんな目立つものを連れていくのだろうか。その一点が、街ゆく人々の関心を引いた。
――なんだあれは。どうかしている。早晩にも、奴らの餌食になってしまうに違いない―――。
人々はみな一瞬の憐れみをもって男を一瞥し、それから、冷たい風の吹く中、家路を急いだ。
これから死地へ向かうらしいその男は、名を森野といった。
すれ違う人々の視線を気に留める様子もなく、森野は駅舎で切符を求めると、ちょうど来た列車に乗り込んだ。
連れの生き物の頭がつっかえたために通常よりも1分遅れて発車したその列車の行き先には、三次という名が表記されていた。
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