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言われて永川は眉を顰め、少し面倒くさそうな顔をした。確かに広島は戦時下ではないが、それは語れば長くなる。
ゆえに、その表情で山崎を軽く牽制したのち…、先の彼の言葉をそのまま返した。
「いいから。今は解れ。問答は後だ」
「…解った」
「とにかく外まで。脚のほう持ってくれるか」
「よっしゃ」
「英心、お前お好み屋の佐々岡さんとこ行って、車頼んで!」
「…わかった!」
足元に視線を泳がせていた梵は、頭上から掛かった号令に弾かれるようにして踵を返し、また疾風のように走り去った。
同時に山崎はその場へしゃがみ、背中へ結わえつけた軍刀を一度背負い直して、それから前田の両腿に手をかけた。
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