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そうして間もなく、5分ほどののち。ようやく、ようやく…、その時が来た。
長い長いブレーキ音が夜の闇へと吸い込まれ、次いで短く息をつくように、列車はドアを開け放った。
山崎はまず、自分だけホームへ一歩踏み出し、左右の様子を窺ってみた。…そして、目的地に着きさえすれば後は人手を借りればいいなどとの考えがいかに甘かったかを…、すぐにも思い知らされることになった。
少なくとも見渡せる範囲で駅舎に人影はない。助けを求める声さえもまた、天空の月をも震わす如き虫の合唱に、端から掻き消されてしまう。
車窓の外を眺める間に一応の覚悟はしていたつもりだった、が、しかし……。
これはまったくとんでもない所へ来たものだ。

やっとの思いで前田を引き摺り降ろし、山崎は、去り行く列車の後姿と、相変わらず苦しそうに歪んだ顔とを交互に見つめて、逡巡した。背負って移動したのではとかく時間が掛かって仕方ない。かといって、ここに寝かせて誰かを探しに行っている間に容態が変わりでもしたら…。

そのときだ。バタバタという乱れた足音が背後から近づいてくるのが聞こえた。振り返って見ると、自分と同じくらいの年頃の少年が、丁度角を曲がって来るのが見えた。しかも都合のいいことに二人連れだ。山崎は内心で歓声を上げた、…助かった!

同時に、相手も山崎と前田の姿に気づいたらしかった。瞬間的にギアを上げ、もうもうと土ぼこりを巻き上げ猛然と走り寄ってきたのが、後に広島の一部を恐怖の底へと陥れることになる梵英心。
その梵に相対する運命を背負った永川勝浩は、遅れること約100メートル、死にそうに息を切らして、どうにか後を追ってきていた。

「手ぇ貸してんか!この人な、前田言うて…、」

真正面から声をかける山崎に目もくれず、梵はつむじ風のように脇を通り抜けた。そして前田の傍へしゃがみ込むなり両肩をガッシと鷲掴みにし、そのまま大きく揺さぶった!


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