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少年は細い目を大きく見開き、次には二度しばたいて、受け取った軍刀と前田の顔とを交互に見つめた…、信じられないという様子だった。
しかし、数秒のあいだそうしたのち、はっと思い出したように立ち上がると、たったいま受け取ったばかりの刀を、前田に向かって差し出した。

「せやかて。これ無いとあんた、よう歩けへんやないか」
「なんじゃ、怪我人殴りかかっといてからに、そげな心配してくれよるんか。…そうじゃな。そんなら」

依然、膝をついたまま、前田は右手を頭上へ挙げて言った…、

「お前さんが肩貸してくれたらええ」

――これが、後に前田智徳の三番弟子となる、山崎浩司との出会いであった。

この出会いは実に画期的な効果をもたらした。ようやく辿り着いた駅舎には既に神戸軍の手が回っていたが、その手配の具体的内容は「眼つきの鋭い広島訛りの男」というものだった。
今やその足で歩くのもやっと、いや正確には歩いているというより引き摺られてどうにか移動していると云ったほうが的確であろう前田の眼には、既にその精気はなく、かつ、検問にはすべて山崎が対応し前田は無言を貫き通した。口もきけない、というのはこの時点においてはいささか演技であったが、誰しもそれを納得せざるを得ない程、前田の顔色は悪かったのだ。


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