586
「ほれ見い。…ええ若いもんが。お前さんの顔に、まだ死にとうないて書いちょるわ」
それだけ言うと、前田は切先を外へ外し、それからスッと刀を納めた。鍔が鞘の口に当たる鈍い金属音が鳴る。
「…かった」
「なんじゃ」
「…悪かった」
「わかったらええ。俺も大怪我しちょる。じゃけぇ余計な事しとると俺が死ぬんじゃ」
「…その刀が、欲しかってん」
「刀?これか?」
極めてバツの悪そうな、喉の奥からどうにか搾り出された告白を聞いて…、前田は意外そうに片眉を上げ、手元の軍刀をあらためてチラと見た。
[NEXT]
[TOP]
[BACK]