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山崎を自立した大人と認め、ただ真直ぐに面と向かい、しかじか、要旨を告げて、「お前どうするか」とだけ簡素に問えばそれでよかったのだ。もしもそうしていたら…、山崎は、たどたどしくも、思うところを述べただろう。仮に一人で結論に至らなくとも、目の前に相対する師と問答することで、雑然とした頭の中から、それなり納得のいく答を捻り出すことができただろう。
これらの可能性とタイミングを前田は自身の思い込みから逸してしまった。永川と梵が正面からぶつかり、そして血を流しあうという、これから起こるべき惨劇を具体的に想像させたくなかったがために。それに山崎が耐えられないだろうと思ったのか、告げる自分の準備がいつまでもできないままでいたのか…、落下点を見極められないまま内野の打球に近づきすぎて、結果、後逸してしまった。Eの点灯は免れない。
「今更そない気ィつこてもろても、なぁ」
ハァ、と溜息をついて山崎は歩みを止めた。そして後ろ頭をガリガリ掻くと、枯れ始めた草の土手に腰を下ろし、寝転がって空を見上げた。
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