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もし今回もそうなのだとしたら…、もはや手遅れと言わざるを得ない。二岡はひとつ息をつくと、パタリと音をたててファイルを閉じ、それから目を閉じて逡巡した。
仮に出来る限りの調査をしたうえで、なおかつ清水に落ち度がまったく見当たらなかったとして、それを自分が懸命に主張したところで、きっと徒労に終わるだろう。清水が助からないばかりか、悪くすると二岡自身も巻き添えになるかもしれない。
二岡は決して悪人ではないが、どんな悪事も見逃さぬという正義感にあふれた男でもなかった。そしてこのとき二岡の頭には、善悪の他もうひとつ、大きな天秤が存在していた。それは何かと言うまでもない。損得だ。できる範囲で悪を許したくないとは思うが…、それはそれとして我が身は惜しい。
…ならば、まずはできるだけ調べて、それで何も掴めなければ適当にもっともらしい報告をして清水を陥れてしまえばいいのではないか…。
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