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「まあ聞け、相手はあの撃墜王だ。慢心があるだろうとまでは言わんが、こっちのことは敵だと思ってないだろう」
「はあ」
「ハエとも思ってないかもしれん」
「なるほど…」
「蚊ほども」とか何とか言い出すかと亀井は思っていたが、清水の表現はさらにその下を行った。
ハエとはまた謙遜が過ぎるが、確かに、刺せないのだから蚊ではない。亀井は妙に納得した。
「だからそこを衝いてみようかなと。どうよ」
「…具体的には」
上官からどうかと問われたのに対し、亀井は何も述べずにその先だけを促した。まだこの段階では意見は求められていないということを彼はわかっているからだ。よって相槌だけ打てばいい。
「うん」
話を促された清水は、具体的にどうこう述べるでもなく生返事をしたかと思うと、おもむろに液晶画面に向かいキーボードを叩きはじめる。
「お前ここのプログラムわかるんだっけ。それともお前じゃなかったっけ」
「いじったことあります」
「どこそこ直せって言ったらすぐ探して書ける?」
「特別に難しい注文でなければ…」
「あとは誰いるっけ?」
「自分と、他は…、二人くらいは触ったことがあると思います」
「そうだっけか。そうかも」
顔を見ないまま人に質問を重ねるその姿勢は偶然にも、前線を挟んで遥か彼方に対峙する山本と概ね一致する。
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