537

☆ ☆ ☆

「次」

蔵本英智はあくびをしながら前へ進み出た。
広島への出入りは本来さほど厳しく制限されていないが、関東地域での政治的緊張の高まりを受け、西宮警察は朝から入国者に対し審査を設けている。その列に並ぶこと小一時間。

「随分とまた、軽装だな」

ひと目見るなり、審査官が言った。それに蔵本はすかさず言い返す。

「なんか文句あるんすか」

出稼ぎのハンターと思しき重装備の男たちに混じって、ショルダーバッグをひとつ掛けただけの蔵本は確かに異彩を放っていた。

「入国目的は」
「買い物」
「何を買うんだ」
「わざわざ聞くか。肉に決まってるっしょ」

ここで言う肉とはもちろんスラィリー肉を指すが、実のところ目的は森野を掴まえることだから言い訳は何でもいい。

「業者なら、許可証を見せろ」
「ないよ。単なる買い物だもん。俺が食う肉を買いつけに来たの」
「はあ!?そのためだけに名古屋から、この緊張下」
「だけって言いなさんな。休みとっちまったんだ。それに俺はアレが大好物なんで、ないと生きた気がしなくてさ。安全で質のいいものを確実に手に入れるには自分で見に行くのが」
「もういい、通れ」

蔵本の言葉を遮り、審査官はあきれたような顔をして言った。

「だが物好きも程々にしておけ、でないと怪我するぞ。次」
「どうもどうも、ご苦労さん」


[NEXT]
[TOP]
[BACK]

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル