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帆足が何も言わないので、大沼は親書に目を戻し、続きを読み上げる。
「『断じてそんなことがあってはならない。この戦いの火蓋を見事切って落とした貴殿らには、引き続き協力を要請する。詳しい話は使者から聞いてもらいたい
聖都神宮総統、高田繁』
…わかったか?もういっぺん読むか?」
「いや、いい」
「そうか」
「だが、」
「何だ」
「…その手紙に何か意味があるのか」
初めに言われたとおり、親書には目新しいことは何も書かれていなかった。結局はガイエルから話を聞けという内容だ。
その手紙をガイエル本人に持たせることに何の意味があるのか、帆足には理解できなかったのだ。
「あるさ。聖都の印と高田総統のサインが入った直筆親書を貰ったってことが大事なんだ。中身は重要じゃない」
「なるほど…、」
帆足はここで初めて剣の柄から手を離し、考え込むように顎を撫でた…、そしてハッと我に返ると、再び剣を握り直した。
「そういうものか」
「そうだ」
彼は大沼の言うことやることについていちいち深く考え込まない。そういうものだと言われたら、それまでだ。それで芯から納得する。…そうすることに決めている、もう何年も昔から。
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