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☆ ☆ ☆
どうにか注射が済み、森野が待合室へ戻ると…、貴哉と東出に加え、永川も既に降りてきていた。
「お疲れさん。痛かったろ」
「いやあ、まあ、そうだな…、痛かったが、昨日のアレほどではないかな。昨日から腕を刺されてばかりで、ほんとに。参った」
「俺は別に刺してないだろ」
笑顔で喋る永川を見て、林との話し合いがその後どうなったのか森野は少し気になったが、それを尋ねる立場にないことは承知していた。
尋ねれば永川は差し支えのない範囲で答えてくれるかもしれない。しかし、いま東出のいる前で再びその話を出すべきではないと思ったのだ。
「あれで…、どのくらい効果が続くんだ」
「そうだな、2週間くらいだな」
「てことはお前…、2週間に1度、あれを打つのか!?」
「まさか」
思わず引きつった顔をする森野を見て、永川は笑った。
「錠剤もあるんだよ。だけど、飲み始めから効果が出るまで日にちがかかる」
「なるほどな」
「その点、注射だったらすぐ効くからな。…そうだ、あの先生、顔に傷あっただろ」
「あったかな。どうだろう、記憶にないな…」
「なんだ、ちゃんと見ないできたのか、それともだいぶ傷跡も薄くなったのかな。アレな、マサユキが入院してたころに思いっきり顔面引っ掻かれて、流血沙汰になったんだよ」
「うぇ、そうなのか」
「医者とか治療とか奴にはわからんからな。捕まえようとすれば死ぬ気で抵抗するだろ。
俺は現場は見てないが、後で顔見たときは虎にでも襲われたのかと思ったぜ。森野あんた、取って食われなくてよかったな」
「ちょっと兄さん。それはオーバーだよ。それに今は多分そんなことしないって」
ニヤニヤしながら話す永川を、横から貴哉が制した。しかし、その貴哉のサラリとした言葉の端が、森野の耳に引っかかった。
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