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「そんならわかるでしょ」
「……」

林は東出の顔を見つめたまま、黙ってしまった。いや、黙っているというよりは、次の句が出てこないようだと言ったほうが正しい。突然名指しされたからというだけの理由では、到底こうはならないだろう。

「梅ちゃんの代わりだよ。気持ちはわかるけどさ、他にいないんだろ」
「代わりだと」
「だから。なんでナーが割り込んでくんの」
「昌樹に構うな。代わりは俺がやる」
「無茶言うなよ」

東出は呆れたように息をひとつついた。

「倍働けばいいとか、そういう問題じゃないんだって。そのくらい分かんだろ、いや分かって言ってんだろうけどさ。梅ちゃんが元々、お前の代理だったんだからね?そんでもし今お前になにかあったら、誰が、」
「今、何があるって!?」
「いや別に?」

今何かあったら、という言い回しに永川はきわめて敏感に反応した。普段のハントに比べて格段に危険な戦いをこの後に控えているという事実が彼にそうさせたのだ。
もちろん、その事実を東出が知るなどとは、冷静に考えれば思えない…、だがこのとき永川は冷静さを少し欠いていた。一瞬、なぜお前がそれを、とさえ思ったのだ。

「じゃ逆に聞くけど、何もないって言いきれるわけ。お前が強いのはよく知ってるけどさ」

永川の食ってかかるような反応を見て、このあたりでは敵なしと言われる者が持つであろうプライドに対する多少のフォローを入れつつ、東出は一般論を展開した。
正確に言えば、そうすることしかできなかったのだ。何かあったら、と言われたくらいでそれを侮辱と感じるほどに永川は短気ではないと東出は知っているが…、さりとて、他に心当たりがない。
このとき東出は違和感を覚えていた、しかし…、それはカケラほどのものだった。昔から永川や梵よりも随分と聡い子供で、そして今現在も彼らより頭の切れる東出と言えども、
さすがに、たったこれだけのことから、この後のマスター討伐の計画を嗅ぎ取れるはずもなかった。


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