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「ちょっと、チビ、」
「何が言いたい」
「事実だろ?」
うろたえる貴哉、そして不快感をあらわにした永川に対し、さらに追い討ちをかけるように東出はさらりと言葉を重ねる。
「祈るより前に、考えとかなきゃならないことがあるんじゃないのかい」
「…何の話だ」
「お前に言ってんじゃないよ」
「俺じゃなきゃ、誰だってんだ!?」
永川はあからさまに不愉快そうな表情をしたが、東出は全く意に介さない。永川のこういう顔は、多くの場合作り物であることを、付き合いの長い東出は知っているからだ。
本来の永川は、ちょっとした喜怒哀楽をすぐに顔に出すような男ではない。少なくとも、過去に東出と親しく付き合いのあったころの彼はそうだった。
にも関わらずこうして大声を出すということは、つまり、自分を黙らせようとしているのだと東出はすぐに理解した。
スラィリーハントの世界では実力的にかなう者がなく、役目を取って代わる者もなく、それゆえ怖い顔をして不機嫌な声を出せば大概要求の通る立場が、おそらくは永川にこんな癖をつけたのだろう。
そして、その世界の外にいる人間にさえ、意図してかそうでないかはともかく…、こうして同じことをする。それを東出は苛立たしく、そして少し残念に思った。
「わかりきったことを聞くもんじゃないね。おい昌樹、聞こえてんの」
「え、」
ここで急に話を振られた林は驚いたように顔を上げた。
「聞こえ、てるよ」
その口から出てきたのは、ひどく怯えているような、ビクついた声だった。表情も強張っている。…事情を知らない森野がちょっと見ても、普通ではないように思える。
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