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ガラスの自動ドアに近づくと…、ウィーン、という機械音がしてドアが開く。リノリウムの床、明るい照明、少ししおれた観葉植物、待合の長椅子に雑誌棚、その向こうに受付があり、女性が座っている。ごく普通の病院だ。何も変わったところはない。
一行はスリッパに履き替え、その受付へ向かおうとした、そこで横から声がかかった。
「あ、永川」
「おう」
声の主は看護師風の、温厚そうな短髪の男だ。
「東出もいるのか、弟くんもお揃いで、どうしたの」
「別に。ついてくるって言うから」
「違うでしょ。連れてきてもらったんでしょ」
胸には井生崇光と名札がある。年の頃はおそらく永川と同じくらいだ。その親しげな様子からいって、友人だろうと森野は推測した。
「用事があるのは俺なんだから、ていうか、どうでもいいだろ。予防注射頼む」
「こないだ来たばっかりじゃん」
「俺じゃない。こっち。今度の相棒だ」
「相棒だって?珍しい」
井生は永川のつくり笑顔に劣らぬ人懐こい顔で、森野へと向き直る。
「永川をよろしくお願いしますねー」
「え、ああ、はい」
急に話を振られ、森野は例によってドギマギと返事をした。
「挨拶はいいから、とにかく注射を頼む」
「俺に言われてもね。受付行ってちょーだい。あ、初めての方はまずそこの問診票記入して、受付に出して下さいねー」
「いま行くところだったんだ。そこにお前が声かけてきたんだろ」
「そりゃ悪かったね」
言われるままに森野は、待合室の隅に置かれた机の上から問診票を一枚と鉛筆を取った。氏名、年齢性別、連絡先、体重、病歴手術歴に服薬歴、アレルギーと飲酒喫煙の有無。ざっと見たところでは一般の医療機関のものとほぼ変わらない。
違うところはひとつだけ…、用紙の一番下に、スラィリーハント及びスラィリーとの接触経験があるかどうかの設問があることだ。森野は数秒の間その文言を眺めたのち、ゆっくりと「いいえ」に丸をつけた。
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