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今は広島の片田舎、自衛隊を手伝うかたわら猟師の永川と3万円の攻防に明け暮れる青木勇人は…、長田秀一郎の加入より前の、初期の解放戦線における優秀なブレインであり、その手腕自体に疑問を持つものはなかった。
だがその一方で、政権奪取後は立場を利用し私財を蓄えていたというのは、当時から、本人が去って数年を経過した今でも、所沢では有名な話だ。
そして、意識しているかどうかはともかく、帆足がそういう人物を好意的に評価するのは当然のことかも知れないと岸は思った、
なぜなら、それなりに無視できない欠点をもちつつも所沢の政権奪取には不可欠だったという点で、自身と共通しているからだ。

「まあ、沼の野郎はウダウダしてっから、長者みてぇにバシッと筋通したがる奴のほうが向いてるんだろう。だが俺はどうも、奴は好かん…」

岸が思うに、それはわざわざ口に出さなくてもいいことだ。同じ幹部仲間を相手に、幹部の誰が好きで誰が嫌いなどとは、思っても言うべきでない。まして今は去った人物と比較するなど、意味がない。
帆足は自身が思慮深くないことを自覚してはいるようだが、しかし、自覚はしても自制するところまでは至らないのだろう。よくあることだ。
さらに言えば、いま、この狭い車内で二人きり座席に並んで座っているという密室効果が、あるいは帆足の気を緩ませ、余計なことを喋らせているのかもしれなかった…、
岸は、ここで聞いたことをきっと誰にも喋るまいと、そう固く心に決めた。


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