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ぶっきらぼうにそう言うと、帆足はいきなり座席を後ろへずらし、ダッシュボードへと脚を乗せた。
そんな姿勢から何かの時すぐ動けるんですか…、そんな台詞が胸に浮かんだが、岸はそれを喉から出そうになるよりも前に飲み込み、サイドブレーキを解除して、そのまま車を発進させた。
能力者のもつ力がどれだけ桁外れのものであるかは、前夜目の当たりにしたばかり。そんな彼らの常識は、自分たちのそれとは随分違うのだろうと思ったからで…、平たく言うとこれは、能力者の扱いに慣れてきたとも言える。
帆足がパワーウィンドウを少しすかすと、心地よい風に乗って薬の匂いがプンと岸の鼻をつく。思い出して岸は帆足の脚をさりげなく横目で見た、
包帯が案外きちんと巻かれ、出血は止まっているようだが…、それ以上のことはわからない。

「それにしても、昨日の今日で、また御一緒させてもらえるなんて。どうもありがとうございます」
「礼なんか要らん。俺は嫌だと言ったんだ。今日こそは、これっきりと思えッ」
「え」
「畜生、あの野郎」

岸になんの遠慮もなく、帆足は歯を剥いて舌打ちをした。今日も絶好調に機嫌が悪い、らしい。この男の機嫌のいい日が果たして年間に何日くらいあるのか、そのあたり岸はよく知らないが…、
やはり、前日少し話をしたくらいで、多少なりとも彼に気を許してもらえたなど、考えが甘かったのかもしれない。岸は知らずのうちに首を竦めた。


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