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梵は強力な能力者の多い広島でも、並外れた使い手である。それは単にアレックスの見定めようとしているような破壊力においてのみではない。
辺りを巡る気の流れを読み取ることで、生き物の存在や動きがある程度感知できるということも、ここ三次ではよく知られた話だ。なぜなら、マスターの危険性を啓蒙する目的で、スラィリーハンター協会がそれを宣伝している。
当然、アレックスもそれを知っていた。知っていたが…、彼はそれよりもう少しだけ、詳しい知識を持っていた。ここから先は、広く知らしめると逆にハンターたちに軽率な行動をさせる誘因になるので、一般には伏せられている情報だ。
梵は確かに、この山中における人間やスラィリーの動向を1キロ以上も先から感知するが…、数が少なく、感情つまり気を荒立てず、その場にじっとして動かないものの存在に気づくことはできない。ごく普通の人間と同じく、視認するしか手段がないのだ。
これは梵の恩師である前田から旧友のブラウン経由でもたらされた情報なので、信憑性は確かである。…少なくとも、彼が恩師の元から姿を消した時点では、という但し書き付きで。

その後の梵がどれだけの使い手になっているかは、本人を除いてはおそらく誰にもわからない。現役を退いて久しい前田はもちろん、たびたび山に入ることがある永川さえも、直接対峙したことはない。
互いに力を認め、警戒しあっているからだ。もっと言えば、接触を避けているとも言える。偶然その場に居合わせても、せいぜい、前日のようなニアミスを起こすことがある程度。
もっとも、仮に梵の実力を知っていたところで、永川が広島自衛隊へ正確な情報提供をするなど、万にひとつもないのだろうが…。


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