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…しかし、どうしたことだろう。スラィリーマスターは一向にその姿を現さない。
マスター出現は誤報だったのか…、否、それは考えにくい。岸本は動転してはいなかった。自身が無傷だったのみならず、意識を失った木村を背負って戻ってきたのだ、むしろ冷静だったと言える。
それに、マスターでなく他のスラィリーならば、逃げる岸本を追って、とっくに姿を現しているはずだ。それをしないということは、マスターの意思が働いているのに相違ない。
近くにいるのか、それとも、事情があって立ち去ってしまったのか…、
そこまでアレックスが考えを巡らせた、その直後。
茂みをかき分け、木々の間からのっそりと、スラィリーに跨ったマスターが姿を現した…!

初めから危険は承知。もちろん承知だ。そして彼は百戦錬磨の軍人、これまで幾度となく死線を掻い潜って生きてきた。
しかし、そのアレックスをして、やはりマスターが姿を現したその瞬間、心臓の飛び跳ねる思いがした。…動物としての本能だ。

スラィリーマスター、こと梵英心は、ゆっくりとした歩調でスラィリーを歩かせ、やがて…、広島自衛隊の作業用の臨時の拠点となっている、少し視界の開けたところまで進んできた。
そして2、3度辺りを見回すと、彼はスラィリーを座らせて、その首から地面へ降りた。アレックスはその一挙一動を食い入るように見つめた…、しかし、暴れまわるような様子はない。
座らせたスラィリーをいたわるように、首のあたりを何度も撫でている。その様子からアレックスは、彼らの間にある信頼関係を読み取ったが…、その解釈を少し違えた。
あるいは軍人という職業柄であろうか。アレックスは彼らの関係を、歴史上に伝えられる武将と愛馬のようなものと理解した。


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