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ヨモギはあのヒステリックな年寄りと同じく、人ではないから…、軍隊が蟻の行列よりもしつこいものだということを知らない。そしてヨモギは焦っていた。自身の肩に乗せたその大切な人の立場が危ういことを。
梵が時に複数のスラィリーを操り、ゆえに最凶のマスコットマスターとして恐れられているのは、実のところ、他でもない、あの長老の命令によっている。
自身の意志で梵につき従っているのはヨモギだけ。後は命令されているからにすぎない。
つまり、もし長老に愛想を尽かされる、あるいは最悪、本気で怒らせるようなことがあれば、この山のスラィリーはすべて、敵に回ることになる。
そうなれば、梵の桁外れな気の力に加え、体格の恵まれたヨモギが全力で抵抗しても………、

否、長老に逆らうなど、ヨモギには考えられないことだった。そんなことがあってはならない。これらをすべて破綻させず成り立たせるには、どうしても長老の機嫌を取る必要がある。
彼が人間に肩入れしているわけではないということを、どうにか表さなければならないとヨモギは思った。そうは言っても梵は人の身、実際には肩入れをしているのだから、
彼が長老に対しいつも何を弁明しているのか、細かいことはわからないが、いずれにせよ、言葉では足りない。是非、態度で、結果で表さなければ…!

その思いつめた瞳が、ふと眼下の森を見下ろしたとき。運悪く、二人の人間がその視界に捉えられた。
そこはいつも自衛隊が作業を行っている場所よりも若干、奥に位置していた。斥候なのだから当然のことだが、それをヨモギが知る由もない。こっちの気も知らないで、またズカズカと入り込んで来ている!

その瞬間、ヨモギはマスターの命令なく崖を飛び降りた、居ても立ってもいられなかった。その後の顛末は、先述の通り。
梵が咄嗟にタテガミを掴んで引きとめなければ、おそらくその勢いで、岸本も犠牲になったことだろう。

…梵はそのヨモギの行動を責めなかった。しかし、その梵を悲しませたであろうことを、賢いヨモギはすぐに認識した。安易な行動に出てしまえば、こうなることはわかっていたはず、それにしても…、
ああ、なんと脆い生き物なのだろう。あの一撃で、もう、動かなくなってしまった。その脆さをヨモギは恨めしいと思った。


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