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李は急に声を潜めた。井端はその表情にピンときたが、その横では荒木がポカンとしたように口をあけている。李とのつきあいの浅い荒木には、それが何を意味しているのかわからないのだろう、そう井端は理解した。

「…何か、気になるところがあるんだな」

荒木の理解を促すべく、井端は言った。つまり、これからこのテーマについて議論を行うぞ、という宣言だ。

「ある。ただちに状況の分析を」
「わかった」

これで大丈夫だろう、と思った井端は山本の背中に一礼し、くるりと踵を返してエレベーターへと戻って行った。その後に李が続く。しかし荒木が続いて来ない。

「荒木、早く来い!」
「あっ、はい」

反射的に返事をして、とにかく呼ばれるままに、荒木は二人の後を慌てて追った。
李の表情が読めなかったことも間違いではないが、そもそも荒木は、自身がこれから行われる議論に参加するなど夢にも思っていなかったのだ。

「突然あれだけの反撃にあえば、文京軍も急には対応できない。少し時間的な余裕ができるだろうから、とりあえず指示するまでお前は前線に出なくていい。そのかわり、意見を聞かせろ」
「え、意見?ですか?え、いやっ、いきなりそんな事言われても」
「何がいきなりだ。お前は俺の副官じゃないのかよ」
「ああ…、そうかも。いや、そうでした。そうでしたけど、そんな」

わかりやすくあたふたと狼狽する荒木を見て、井端はこの日すでに何度目かわからない溜息をついた。


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