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到着した先のそのフロアは…、井端には周知のことであったが、壁面全体にズラリとモニタの並んだ部屋。
そして雑然と置かれたコンピュータと、無数のレバーやスイッチ、色とりどりのボタンの付いた操作盤が所狭しと並んでいる。
「ビョンさん」
その部屋の中央付近に腕組みして立っている李に歩み寄り、井端は声をかけた。
「戻ったか。西基地のかたが、すでに見えているぞ」
「そう聞いたから、急いで来たんだ。それで、どちらに」
「こちら」
李は自分の隣の席に座っていた男に手のひらを向けた。井端とて、李の隣で忙しく作業に没頭するその人物に気づいていなかったわけではないが…、他の人員に紛れてしまって、まさかそれが話題の人物とは思わなかったのだ。
男はおそらく中年にさしかかったくらいで、恰幅がよく大柄だ。前方のモニタを縦横に忙しくチェックしながら、芸術的な手捌きで、手元の操作盤をいじくり回している。
「どうも。お初にお目にかかります、司令官殿。ええと、井端弘和中佐、でしたかね」
男は相変わらずモニタに視線を向けたまま、立ち上がりもせず鷹揚にそう言った。その態度に思わず井端は面食らった、彼とて自分の役職をカサに着るわけではないが…、相手を司令官とわかっていながらこの物言いとは。
一体何者だ。思わぬ先制攻撃に井端が言葉を失っている間に、男はさらに続けた。
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