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それに対し梵はまずスラィリーたちの安全を確保しなければならないから…、時に人間よりもスラィリーの生命を優先せざるを得ない場面に直面することがある。前日の一件は、まさしくその場面だった。
一人のハンターを殺しても、一頭のスラィリーを護らなければならない。頭ではわかっていたはずだ。しかし人であるがゆえに、そこで彼は迷いを生じた。
それはごく自然な…、建前として人間社会の平穏を護っている永川よりも、余程人間らしい感情だ。あるいは人里を離れて久しいからこそかもしれない、しかし彼は、その感情に揺り動かされてはいけない立場だった。

「…そのせいで、結局、あいつを死なせてしもたんじゃな」

ヨモギは応えなかった。それが自分に投げかけられた言葉ではないと思ったからだ。その言葉のこぼれ落ちていく先は…、この谷底に溜まった霧の中あたりだろうか。
しかし、隣で綴られる愚痴がよく理解できないなりに、昨日の一件については、ヨモギ自身も思うところがあった。


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