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膝に付いた落ち葉を払うと、梵は珍しく全速力で走り去った、そして俊足を飛ばし、やがてその手に鶏を一羽ぶら下げ戻ってきた。
身体は小さくとも俊敏な彼にとって、すでに道場へ戻っているはずの永川とついでに狐に気づかれず鳥小屋に侵入し、ちょっと獲物を攫ってくるくらいは朝飯前だ。

「うまいか?」

スラィリーの子供は食事に夢中になりながら、ピロロと小さく鼻を鳴らした、その様子に少年は目を細めた。
もちろん彼もこの三次の街に育った子供だから、スラィリーがいかに危険な存在であるか、幼少の頃から父母や教師に散々聞かされてきた…、
しかし今、実際に目の前に佇むこの小さな命から、彼は不穏な気配を感じなかった。それどころか、他の動物たち、例えば犬や猫や野鳥の類と比べて、さほど変わったところはないようにさえ感じられたのだ。

スラィリーが鶏の肉を食べ終わるのを待って、梵はひとこと別れを告げ、道場へと戻った。
当時、前田はまだ傭兵稼業で荒稼ぎをしていた頃で、道場を留守にしていることも多かった、そして師の不在の折には梵が道草を食って帰ってくることは珍しくなかったので、永川は梵の帰りを待たずに先に朝食を済ませてしまっていた。
よって梵はひとりで飯をかきこみながら、つい先刻の出来事に、ぼんやりと思いを巡らせた。なぜ、あんな幼いスラィリーが、たった一頭で罠にかかっていたのだろう。親はいないのだろうか。
だとしたら、単に罠から解放してやって、一度の食事を与えただけでは、実のところ何の足しにもならないのではないか…?

居ても立ってもいられず、梵はその日の晩、永川の寝静まるのを待って道場を抜け出した。そして暗闇のなか、少し遠くから目を凝らした…、
果たして、スラィリーはまだその場所にうずくまっていた。
足が痛むのか、体力を損耗していてまだ動けないのか、それとも、自由の身になったところで、帰る場所がないのだろうか…。


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