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突然の申し出に、蔵本はあやうく手からフォークを取り落としそうになった。

「な、なに寝ぼけてんすか、冗談じゃない。大体、今の俺に何ができるって、」
「お前しか頼める奴がいないんだ。基地の人間を動かすわけにはいかない。詳しいことは話せないが、森野が昨日から姿を消した。だから、奴を探してほしいんだ」
「そんなの、俺にはムリですよ!俺はそこらで顔が知られてるから、人探しなんて…」
「そのことなら大丈夫。お前に行ってほしいのは、広島だ」
「広島…?」

その地名を聞いて、蔵本は、多分に漏れず訝しげな顔をした。

「森野は、広島へ行ったんすか」
「断言はできないが、その可能性がある。お前は名古屋じゃ有名だが、全国的に名が売れてるわけじゃないだろ。だから広島なら、大丈夫だ」
「なにその大丈夫って、大きなお世話っすよ」
「とにかく頼む、森野の命がかかってる」
「森野の、命が…!?」

固まる蔵本を見て井端は、自分の口がうっかり滑ったことを一瞬遅れて認識した。
確かにその後の人生や軍での立場など、色々大切なものがかかってはいるが、命がかかっているとは言いすぎた。しかし今更後には引けない。
前日すでに長官に向かって嘘をひとつついている、かくなるうえは上塗りだ!

「そうだ、頼む。いま森野を失うわけにはいかん。どうか。…この通りだッ」
「んなっ…、バッさん何するんすか、わかった、わかったから顔上げて下さいよ!!」

テーブルに両手をついて頭を下げる井端と、それを必死で制する蔵本をチラチラと横目で見ながら、ウエイトレスたちが小声で何かを話している。
そこに座っているのがドアラ漫才の蔵本英智だと気づかれたか、あるいは単に、お客様お静かに願いますと言いに行くタイミングを計っているものかもしれない。


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