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相変わらず目を見ない大沼に苛立って帆足はさらに追及する。大沼は黙ったまま言葉を選んでいるようだったが、やがて口を開いて言った。
「力者には情熱があって、高潔で理想も強く持っていて、そこらへんは申し分ない。でも」
大沼は一旦言葉を切った。帆足は無言でその先を待つ。
「あいつは、旧政権を倒す前の俺達を知らない」
確かに小野寺は、解放戦線が事実上の政権を取った後に入ってきた。以降、広報として使われているから知名度は高いが…、幹部の中では年数も浅いほうだ。しかしそれだけでは帆足を納得させるに足りない。
「それが何だって言うんだ」
「だから、そこまでに俺達が歩いてきた道を、一度見せておきたかった」
☆ ☆ ☆
旧政権の末期、治安維持という名目で新法が施行され、特殊な力をもった能力者が片端から逮捕されていた折…、
青年と呼ぶにもまだ幾分年若い帆足は、収監先で大沼と出会った。
当時の帆足は札付きで、手勢を引き連れ、悪行を尽くし、元々どこから逮捕されてもおかしくない身だった。そして実際に連行され、自分はこれで終わるのだと思っていた、
何しろそこは、独裁政権下の数多くある監獄の中でも特に悪名高い、一度入ったら生きては出られないと言われた場所だったからだ。
これで目的も何もない、悪夢のような日々が終わると思えば最早何もかもどうでもよかった。
能力者ゆえに他から隔離された独房で、高すぎて外も見えない窓の光を眺めて、帆足はこれまでの道を思い返した、そして我ながらつまらない人生だと思った。
しかし、本来独房であるはずのその部屋へ、逮捕者が多すぎて独房が足りないという瑣末な理由で、後からもう一人が投獄されてきた。
それが、大沼だったのだ。
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