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靴の紐を縛り終えた森野は、言われるまま開け放たれた玄関の敷居の上へ顔を出し、しゃがみ込んだ。
すると突然、永川は開かれていた玄関のサッシに手をかけた、

「あっ、こら勝浩、」

気づいた倉が声をかけたが、しゃがんで地面を見ていた森野は一瞬反応が遅れた。
永川はそのままサッシをガラガラと引き、森野の頭へ打ちつけた!

「痛てっ!!ちょ、お前、何するんだ!!!」
「ばーか冗談だよ、コロっと引っかかりやがって、うひゃはは」
「ふざけるな、あんなの引っかかるに決まってるだろ!」

指をさして笑う永川に、森野は顔を赤くして抗議し、そして腕を伸ばして永川の耳を掴もうとした。しかし永川はスルリと自転車のハンドルを切って逃げる。

「おい、待てよ!」
「心配しなくても待ってんよ、でも帰りは登りだから、乗っけてやらないからな」
「そりゃ、わかってるが…、ではご住職、夜分失礼いたしました」
「じゃ、がんばってついてこいよ」
「っておい、お前はチャリ乗ってくのかよ!待てってば!」
「だから、いちいち本気にすんなよ…、あんたは…、…」
「…お前は…、おい、…、聞いて…」

挨拶もそこそこに森野は永川を追ってドタバタと走って行き…、やがてはその声も夜の闇に消えていった。

その後姿を見送って倉は…、森野に向かって冗談を言い、歯を見せて笑った永川の人懐こい笑顔を思い出し、
この子がこんな風に笑うのを見たのはいつ以来だろうか、などということを、考えるともなしに考えていた。


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