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その声が先か、否か、ほとんど同時に、帆足の剣が空気を裂いた。悲鳴とともに猛烈な血しぶきが上がる。そして拳銃を握った腕が跳ね飛ばされ、血塗れになった男が、やがて車から引きずり出された。
「抵抗は無用だ。貴様も出てこい」
入れ替わりに運転席へと身体をネジ込んだ帆足が、助手席に向かって発する声が聞こえる。まだ同乗者がいるのだ。小野寺は助手席側を取り囲むよう手勢に指示を出した。
「銃を捨てろ。俺も乱暴はしたくない。見てなかったわけじゃないだろう、貴様がその銃を撃つより、俺の剣のほうが速い」
その言葉にあっさりと従い、助手席から出てきたのは…、女だった。その背後から血刀を突きつけつつ、帆足は小野寺を一瞥すると、それから顎で女を指した。
「何を」
「はあ!?縛っとけって言ってんだよ」
「あ…、すまない」
「そんなことも口で言わなきゃわからねぇのかよ。じゃあ一応言っとくが、こいつもだぞ?」
尊大な口調でそう言い捨て、帆足は右腕の半分を失ってその場にうずくまる男の背中を蹴り飛ばした。男の口から漏れたうめき声に、思わず小野寺は顔をしかめる。
すでに重傷の相手に対してこの蛮行、こういうことを平気でやっているから、いつまで経っても俺達は国際社会で認められないんじゃないか…!
小野寺は覚えずのうちに歯軋りしそうになる自分をぐっと抑え…、帆足の後姿を暫し見つめながら、自分の首に巻いていた麻のスカーフを外し、女を後ろ手に縛った。
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