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安定した基盤を得て、日々戦闘に明け暮れることのなくなった現在の解放戦線では…、ただ局地的な戦闘が得意で、暴れるより他に能のない帆足が幹部の筆頭に位置しているのは、組織として効率的でない。
しかし、独裁政権を倒し、解放戦線が所沢の支配者としての足元を固めるまでの、血塗られた道を先鋒で切り拓いてきたのは、ほかの誰でもない、この男だ。その歴史が肉体に刻まれている。有無を言わさぬ迫力。
これがあるから、帆足が幹部として充分に機能していないことは周知であるにも関わらず、実際その雄弁な肉体を目の前にすると、誰も頭が上がらないのだ。
もっとも、胸板に残された一番目立つ火傷の跡は、戦闘による負傷ではなく、なんでも昔、大沼総帥と喧嘩をしたときについたものらしいが…。

「ね、見てください!…あれ、そうじゃないですか」

突然、岸が声をあげた。その指差す方向を、帆足はチラリと視線を向けて、小野寺は欄干から身を乗り出すようにして見た。
もっとも、二人には岸ほどの視力はなく、正確なことはわからないが…、確かに、ヘッドライトが近づいてくるのが見える。

「あれ、でも、2台…?ですね」

自分で言葉を続けながら、岸は少し戸惑いを見せた。それがどういう考えから来るものか、小野寺にも理解できる。

「少ないな」

先程から話題になっている、幹部を3人も投入しているというのに…、ということから考えると、たったの2台は少なすぎるように感じられる。
なにしろ、時刻、場所まで正確に指定されたのだから、当然、総帥は輸送部隊の編成くらい把握しているはず。
しかるに、この3人に加え小野寺直属の手勢を数名、この人数でアジトを出るところを、大沼総帥は自ら見送っているのだ。
それで何も言われなかったということは…、つまり、そういうことなのだろうか。


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