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森野が驚いて振り向くと、そこには永川が立っていた。よく考えれば別に驚くほどのことではなく、当然、永川に決まっているのだが…、
何やら寺の秘密めいたことを聞かされていたところだったので、思わず尻が浮いてしまったのだ。
驚いて損をしたような気になり、森野はひとつ溜息をついた。
「勝浩」
「モノを持ち出したいだけなら、わざわざ森野を連れてくる必要ないだろ。それに、どれが何なのかも、俺にはわからんしな」
「じゃあ、何を?」
「コレだよ」
そう言って永川は、手にしたものを前へ出し、ばたばたと振って見せた。それは茶色く変色した紙束…、いや、何か書物のように見える。
「孝市法師の書き遺したもんだ。まあ、大量にあるが、そのうちの一冊」
「それこそ、お前、どれに何が書いてあるのかわかるのか…?」
それを見た倉が、訝しげな視線を永川へ向ける。
「わかるさ。昔、ひととおり目は通してたからな。ダテにガキの頃から部屋にこもって本ばっか読んでねえんだよ」
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