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「…話を戻しますと、そんな訳で…、この寺には口伝の秘術のほかに、孝市法師ゆかりの品々や、書き記したものが数多く伝わっています。
 中には、まあ世間で言うところの霊力と言いますか、念と言いますか…、そういった力をいまだに持っているものもあります」
「法師の、気が宿っていると」
「いえ、故人の気がそのまま残っているということではありません。常に携帯している品物に気が宿るということは日常的にありますが、
 それは一時のものです。手から離れてしばらく経つか、本人が亡くなれば、気も散逸してしまいます。
 ただ、一定の儀式といいますか、所定の手順を踏んで、器物に対し意図的に何かしらの力を持たせることのできる術というのが存在しています。
 術者は世に多くありませんが、孝市法師本人か、あるいはここへ来る前に近しく関わりのあった人物が、この手の術の使い手だったのでしょう。
 ただし今となっては、ほとんどの品が、何の力を持っているのか、あるいは何もないのか…、誰にも、わかりません」
「調べる手段はないのですか」
「さあ…、世の中は広いですから、きっと、手がないことはないのでしょうが…、私は存じ上げません。
 ただ、込められた力の有無くらいなら、英心はある程度見分けていたようでしたし、特に強い力のある品なら私や勝浩にもわかります。あなたも、気の力をお使いになるので?」
「ええ、まあ…。日は浅いですが」

本来後ろめたいことは何もないはずだが、今日覚えましたとはさすがに打ち明けにくく、森野は曖昧な返事をした。


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