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「それで、健康状態というか…、問題はないのですか」
「まあ、見ていただければわかるとおり、問題ないということはないでしょうけど。外へ出て働いたりするわけでもないですから、もう、病気しないでくれればそれでいいです。
 それに、マサユキを信じないわけではないですが、やはりいつ何をしでかすかわからないわけですし…、私一人の手に余るような体力があっても、逆に大変でしょうしね」

倉は少し困ったような笑顔を見せた。その表情の意味するところは森野にもわかる。
元の生活に戻せないのなら、せめて人間らしい暮らしをさせてやりたい…、倉がマサユキを引き取ってきたのは、先の話によればそういう理由であったはずだが、
事情に疎い森野の目から見ても、その理想が充分に実現されているとは言いがたい。
もちろん、少なからず愛情を傾けられていることはわかる。それは一見すれば明らかだ。しかし扱いは、同居人というよりもペットのそれに近い。
しかし…、倉がひとりで朝から晩まで世話をしていることを考えれば、確かにこのあたりが落とし所なのだろう。
理想と現実には、常に差がある。

話しながら、倉と森野が傍へ腰をおろすと、マサユキは小さく鼻声をあげてまた寝返りをうった。

「…そろそろ、目を覚ましそうですね。目が覚めると、殴られる少し前に記憶が戻っていますから、またご無礼を働くかもしれません、本当に申し訳ございませんが、何卒…」
「いえ、それは仕方のないことですので。承知しております。それに、こうして見ると、可愛いところもあると仰っておられたのが、少しわかる気がします」

マサユキの顔を見ながら、森野は言った。あの不気味に輝いていた瞳が閉じているためだろうか、その寝顔は子供のようにあどけなく…、
はじめ人目に姿をさらすこともなかったという彼が、今は不安なく幸せに暮らしているのだろうということが、見ただけでよくわかる。
たとえ満足に語る言葉を持たなくとも、ただ眠っているだけで…、これほどに彼は雄弁なのだ。

「そう言っていただけると、有難い。でもね、これで良かったのだろうか、と…、今でも時々思うのです」
「…と、仰いますと」

森野は倉の顔を見た。倉は目を伏せ、口元にかすかな笑みを浮かべている。
マサユキなら、この表情から何を伺い知るだろう。森野には何もわからない。


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