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保護された男は重傷を負って衰弱していたが、その傷もいくらか治癒し始めており、命に別条はなかった。
ただ、精神状態が健常でなく、自分自身が何者なのか、いつ、どういった経緯があったのかを語ることができないため、これが一体、いつ行方不明になった誰なのか、確認作業は難航すると予想されていた…、
しかし、意外にも、この問題は一両日中に解決した。というのは、信頼性の高い目撃証言が出たのである。
スラィリーハンター協会には、ハンターが山へ入る際に記入が義務づけられている台帳が存在する。
つまり、なにか疚しい事情がない限り、ハンターはこの台帳のために一度は協会を訪れることになるわけだが、この台帳の窓口を担当していたアルバイトの女性が、彼の顔を覚えていたのだ。
彼女とて、毎日、多い日には十数人もやってくるハンターの顔をすべて記憶しているわけではないが…、この男はたまたま顔立ちが整っており、人目をひくレベルの美形だった。そのため、それとなしに目に留まったのだという。
そうなれば後はこの台帳との照合で、この男がひと月前に山へ入った四人組の、死んだと思われた三人のうちの一人であることが判明するのに時間はかからなかった。
つまり、傷を負いながら、1ヶ月もの間スラィリーに殺されなかったのみならず、その保護を受けて生きていたことは、火を見るよりも明らかだ。
さらに言えば、子育て中の母親は元々のスラィリーの性質に輪をかけて凶暴であるにも関わらず、である。
この奇跡のようなニュースは、当然、広島の街を大いに驚かせた、が…、この事件にはもうひとつ、看過することのできないポイントがあった。
保護された男の負っていた傷は、単なる外傷ではなかった。なんと、銃創だったのだ!
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