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確率の話をするのなら、確かに井端の言うとおりだ。広島に行っているとも限らない、まして捜索が行われているわけでもない森野に関する情報が、本当にこの1日の間に広島からもたらされたなどと真面目に信じるよりも、
この基地の誰かが「森野が広島へ行ったのではないか」という情報を漏らしたと考えるほうが、断然、理にかなっている。
しかし…、引っかかる部分もある。仮に密告を受けているなら、もっとうまい方法で探りを入れて来てもいいのではないか、
一見してありえないようなことを言っているのは、それが真実だから、ということも考えられるのではないか。
…どちらとも言えない。現状では、判断できない。

「それで、何と答えたんだ」
「そんな事はないと答えたさ。まさか認めるわけにはいかない。まんざら嘘って訳でもないだろう、広島ってのはただの推測だし、俺は森野がどこへ行ったか本当に知らないんだからな」
「…で、長官は何と」
「何も」
「何も!?」
「そのうえ、気にしなくていいとか言いやがる。くそ、一体あれだけで何がわかったってんだ、俺は何を探られたんだ、薄気味が悪いッ」
「落ち着け」

声を荒げる井端をなだめ、李はふたたび考え込んだ。誰が漏らしたかはひとまず置いて、確たる情報が漏れたのならば、何も追及してこないのはどういう訳だ。
嘘はついていないという井端の主張は単なる屁理屈に過ぎない。心当たりがあるのにそれを黙っていた、もし看破されたら…、知らなかったでは済まされまい。
実のところ、李は初めから知っているのだ。落合がいま井端を試していること、そして、不適ならばいつでもその地位から降ろす準備があることさえも。
そのうえで何も言ってこないとなると…、確証が得られていないのか、あるいは、すべて把握しているために、改めて問いただす事柄もなかっただけのことなのか、そして今はただ、まな板の上を泳がされているとでも言うのか…、
…いや、それを考えたところで得るものはない。道はどこだ。どこにある。

「…一体誰が…、まあ普通に考えれば森野を庇うことに消極的だった誰かか…、いや、まさか荒木がうっかりそこらへ漏らしたりはしていないだろうな…」


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