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「いや…、殺気を漏らさないよう、神経を集中しながら行わねばならないことは、わかったのですが」
「うむ」
「そのままでは難しかったので、少し、歌を歌いまして」
「歌を!?」
「へぇ、頭ええなあ」
森野の答えに山崎は感心したが、前田は眉をしかめた。
「それじゃったらお前さん、訓練はそれでええじゃろうが、実戦でも歌を歌わんとならんことになるぞ」
「あ…」
言われてみれば、その通りだ。森野はしばらく開いた口を閉じることができなかった。
「…まあ、でも、着想としては悪くないと思いますよ。それでできたなら、後は口を閉じておけばいいんですから」
「しかし、そう簡単に」
「できますよ。…な!?」
「え、うん」
永川は力強く前田を説得する。その勢いに、思わず森野も押し流された。
「とにかく、時間がありませんので、本来なら数日、せめて明日一日でもお師匠さんに見ていただけたら良かったんでしょうが…、
ここから先の準備は、俺でやります」
「何をそんなに急いどるんじゃ」
「彼の都合がありまして…」
「そうなんか」
「あ、は、はい」
「そうか…」
目くばせする永川にどうにか話を合わせて森野が頷くと、前田は数秒の間、考え込んだ。
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