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「なんや、先に言うてくれな」
森野の傷を見るや山崎はそう言って立ち上がり、戸棚の上から救急箱を出してきて森野の横へ座った。
「動物に怪我させられたらな、ちゃんと消毒せなあかんで」
「あ、ああ、ありがとう」
山崎は手早く脱脂綿をちぎって消毒液を染ませ、森野の額を拭き、続いてガーゼを取り出した。
「メシ中だぞ、今やらなくても」
「腹一杯になったら忘れるやろ。忘れるて。絶対忘れる。自信ある」
食事中に立ち歩く行為を永川は一応咎めたが、そこまで自信たっぷりに言われてしまっては黙るしかない。
「…そんなら…、どうやったら鶏が大人しゅうなるかいうことは、気づいたんか、それとも誰かに聞いたか?」
誰かに聞いたか、というのは、様子を見てきましょうと言って出て行った狐のカーサを念頭に置いての発言である。
その後のカーサの所業について前田は知る由もなく、永川も彼のこと自体を前田に報告していない。
「自分では気づきませんでしたが、恥ずかしながら、こいつに助言を」
「ほお…、お前さん、賢いんじゃの」
感心して前田はドアラに声をかけるが、ドアラは褒められていることがわからないので、無表情で食事を続ける。
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