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「どうもこの、電磁調理器って奴は、火加減がわからなくてイヤだ」
「クッキングヒーター言うてや。慣れたら便利やで、こんだけこぼしても、平らやから拭くのラクやし」
「でも中華鍋とか、底が平らじゃない奴は使えないんだろ」
「ナー中華なんかするんかいな」
「しない」
「せやったら関係ないやん」
「早く味噌汁やれよ、まだこれから肉焼くんだから。早くしないと風呂から上がってきちゃうぞ」
「ああうん。そや、着替え出しとかな。ドアラって何着せたらええんやろ」
鍋のなかに味噌を投入してかき混ぜながら、山崎は永川の顔を見た。
「ほら手元見ないとこぼすぞ。体型は人間と変わらんよ。頭からかぶる服でなければ、なんでもいいんじゃないか」
「そんなら、二人とも浴衣でええか…」
「とりあえずドアラの分だけでいい」
「なんでや」
「いいから。飯食った後、まだちょっと」
「…、わかった。汁、味見しといてや」
ドタバタと二階へ上がる足音を聴きながら、永川は味噌汁を少しすくって小皿へとり、数回息を吹きかけて、口へ運んだ。
「…薄いな」
桶から味噌をすくって入れるところは自分も見ていた。特に少ないという印象は受けなかった、薄味の味噌なのか、と一瞬永川は考えたが、いや、あまりにも薄すぎる。
…これは、もしかして。永川は鍋の中をすくいあげるように数回混ぜた。
「…あのバカ、全然混ざってないぞ」
箸でこまかく水をきる音が、静かになった台所で響く。
「喋らすと途端になんにもできないんだからな。口だけ八丁、手はさっぱりだ…」
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