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「大袈裟な。それにあんたなら、万が一のことがあっても、まさか殺されないだろう」
「その自信はある、事が世間に知れ渡らないうちに所沢へ帰ればいいだけの話だからな。でも俺は広島が気に入ってるしね、この都市が西宮からの解放を望むなら、少し手伝いがしたい。だからいま追い出されるのは都合が悪い」
「勇人さん…、広島好きなんか」
「好きだよ。どこがって訳じゃないけど…、住めば都だね。成り行きで流れ着いた街だが、今は愛してる、俺にできることがあるなら、喜んでするよ」
「格好つけやがって。人間ひとりの力なんて知れてる。所沢じゃ英雄かもしれんが、ここじゃ」
「キミの仰る通りだ。ただの汚いネズミさ。だが、そのネズミにも、できることはある、かもしれない」
青木は歯を見せてニヤリと笑った。嫌な予感がして永川がふと見ると、山崎がその笑顔に羨望のような眼差しを向けている。
ああそういえば、さっきからコイツ、随分熱心に話を聴いていた…、何でもいいから人の話聞けば勉強になるかと思って長々喋らせておいたが、少々度が過ぎてしまったか。
永川としては、山崎には世間のことは勿論知ってほしいが、なんせ青木はかつて政府を転覆させたテロリスト、
そのうえ現在は広島自衛隊内の革新過激派に飼われている、いわば筋金入りの左翼活動家だ。あまり影響を受けすぎるのはよろしくないに決まっている。
「ほら、いつまでいるんだ、お前は早く帰らないと、晩飯の支度あるだろ」
永川に肘でつつかれ、山崎ははっとしたように壁の時計を見た。時刻はすでに5時をまわっている。
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