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「出たよ。残念だけど、肉はダメだね。ドテッ腹に大穴があいてたろ、そこに埋まってた銃弾から禁止薬物の反応が出た。まあ、これで一撃で仕留めていれば、条例的にはともかく肉質には問題なかったんだろうけど」
肉が卸せないとなると…、それだけで値は1/3程度になる。永川は浮かせた腰をまた降ろして、鼻からフゥと息を吐いた。
「ああ…、殺すまで時間置いちゃってるしな。しかも、だいぶ走らせてるし」
「全身まわっちまってるだろうね。こういう言い方もなんだが、どうせ毒物使うならもっと、肉は諦める前提でバーンと致死量使わないと」
「そうだな、そうすれば少なくとも…、死人は出さずに済んだろうにな」
「毛皮のほうは7割いけるとさ」
「お、それは願ってもないね」
「といっても、随分若い個体だから毛皮の単価はちょっと安くなるが…、こんなもんでどう」
青木はカタカタと電卓をたたくと、その数字を表示した電卓を永川へと投げてよこした。それを一瞥して、永川は眉をぴくりと動かす。
「安すぎるな。話にならんね。確かに成体じゃあなかったが、そこまで若くもないだろう。最低でもこれだな」
そう言って永川も乱暴にガタガタと電卓をたたき、それを青木の顔面狙って投げつけるが、青木はそれを片手で難なくキャッチする。
「おーっと悪い、ビビッてうっかりクリアキー触っちまったよ。で、幾らだって」
「てめぇふざけるなよ。随分危ない目にあったのに」
「危ない目にあったのはキミじゃないだろ」
「俺か俺じゃないかなんて事はどっちでもいいんだよ。こっち側の人間が危険を冒したんだから同じだろ。随分危ない橋渡ったよ。な、やまちゃん。死ぬかと思ったよな!」
「あ、や、うん、まあ」
昔話をしている時にはお互い随分仲が良さそうにしていたというのに、仕事の話になった途端にまた言い争いが始まったので、山崎は呆気にとられていた。
そのうえ殺気立った形相で突然話を振られては、口ごもるのも致し方ない。山崎の曖昧な返事に永川が舌打ちする音が響く。
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