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「うん、いい質問だね…、まず関東つっても、端のほうだってのがひとつ。それから、強豪揃いだからこそ、今はどこも所沢に干渉してる余裕がないってのもひとつ。あと、聖都神宮が事実上黙認してるせいもある」
「神宮にそんな力あるのかよ?」
今度は永川が口を挟む。実際、現在の神宮のもつ軍事力は、正式な軍隊を持たず、全体として統率のとれない民兵組織を若干備えるだけの広島のそれと、ほとんど変わらないとも言われる。
「軍事力はないよ。でも、聖都だからね。大義名分を持ってる。ちょっとゴチャゴチャした話になるけど…、仮に、どこかの都市が所沢を占領しようとして、所沢政府救済って建前を掲げて、俺達制圧に乗り出すとする」
「うん」
「でも、今の所沢には俺達が深く入り込んでいて、住民への援助で支持も得ているし、独裁政権下の絶望感を住民はみんな覚えてるからな。俺達が排除されてまた厳しい管理下の生活になることを皆恐れている。俺達もそれを煽ってるしな。
そこを無理に制圧しようとすれば激しい抵抗にあうだろうし、大量に犠牲が出ることが予想されるだろ。
そうすると、制圧に乗り出した側は他都市に非難されることになる、つまり、所沢を手に入れたとしても、次に攻め込まれる口実を他所に与えちゃうことになるわけ。だからわざわざ所沢に手出ししようとする都市はない。誰だって火傷したくないからな」
「はあ」
「でも、神宮が例えば『所沢はテロリストから解放されるべき』とか発言すると、なんていうの、俺達制圧のために犠牲を出すことが正当化されるわけよ。つまり火傷しても見合うだけの見返りが発生するわけ。
…まあ、それがわかってるから、神宮も発言には慎重なんだと思うけどね。神宮もかつての軍事力はもうないから、関東に多くの都市がひしめきあって、互いを牽制しあうような構図じゃないと生き残れない。
だからイチ都市としての本音を言えば、俺達を所沢の統治者として認めたいだろうと思うよ。聖都って肩書きがあるから、簡単にはできないだけで」
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