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しかし、何事も考えずに…、というのは案外難しいものだ。考えるまいと意識すればまたそれが緊張となって心を乱してしまうし、どうしたものやら…、と森野は少し考え、やがて、ひとつひらめいた。
歌でも歌ってみるのはどうだろう。
「とーおいよぞらにこだーまするー♪」
…いける。これはいけるぞ。
「りゅーうーのさけびをみーみにしてー♪」
…程なく、森野ははじめて、鶏小屋の中へ入ることができた。勿論、その手には地鶏が収まっている。
「よいしょ、と。ほれ」
森野が手を離すと、地鶏はばさばさとはばたいて、ゆっくりと地面に着地した。
やれやれ、やっと一羽か…、などと思いながら、大きく息を吐きつつ森野は顔を上げた…、すると、側面の壁に貼られた一枚の張り紙が、パッとその目に飛び込んできた。
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