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ぴくりとも動かなくなった塊が、そこに伏している。青い毛皮に血が染み渡り不気味に浮かび上がったマダラ模様が、傾きかけた陽に照らされ真黒くヌルリと光って見える。
その出血からわかる通り、今更注目するまでもなく死骸は全身傷だらけだが…、意外なことに、頭部には外傷がない。
永川の手から青白い炎がほとばしるのは確かに見た。それは遠目に見ても軽く頭くらいは吹き飛ばしたのではないかと思われるほどの激しい閃光だった、しかし、いま目の前にある死骸の頭部は、毛皮の表面すらも焼けてはいない。
それなのに…、
確かに、死んでいるのだ。
これを奇跡と言わずしてなんと呼べばいいだろう。一体どういう原理なのか。人智を軽く超えている。しかし…、
「はぁ、さすがに秘術ってだけあるわ、まだまだ世の中不思議なことってあるもんやんなぁ…、それも、こんな身近に…」
山崎は自分の頭ですぐに理解できない事象については殊更深く考察することのない性質であり、従って、
彼がこのとき永川のもつ力について持った感想といえば、まったくその程度のものでしかなかったのだった。
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