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そうしてどれだけの間、喚声が場を支配していただろうか。頭を抱える井端の頭上を通過する、さまざまの意見に混じり、突然、耳慣れない声が響く。
「少し、静かにしろ」
声の主は、ここまで無言を貫いていた李炳圭だ。何を考えているのかわからない表情で、腕組みをしたまま立浪を見ている。
「この基地で一番偉いのは、誰なんだ」
彼は名古屋と友好条約を結んでいる異国の都市から最近派遣されてきたエリート軍人で、実力の程は定かでないが、時折見せる底力は確かに凄まじく、
それが本気になればいつでも出せるのか、それとも基本的性質として時々しか出ないものなのかで基地内でも評価の分かれる人物である。
「私は誰の命令を聞けばいいんだ。タツナミ、あなたか。それともイノウエか」
場内は水を打ったように静まり返った。李は立浪と井上、それから場にいる者を順に見回したのち、ジッと井端のほうを見る。
(やった!ビョンさんナイス!いつもはいるのかいないのかわからないけど、今のはナイス!これでやっとバッさんのしゃべりやすい空気が!)
思わぬところからの助太刀に、荒木は内心、歓声を上げた。
(さあ、バッさん、決断を!!なんとか森野を助けてやって下さい!)
しかし直後に井端の口から出た言葉は、荒木の一方的な期待を裏切った。
「…解散。各員持ち場に戻り、担当各所の維持に努めること。以上」
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