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つま先が突如、森野の鼻先3センチ先を掠めた。咄嗟に首を後ろへ退いていなかったら、遅れてきたもう片方のつま先に鼻を蹴られていただろう。
一瞬、何が起こったのか、森野には理解できなかった。
足元への攻撃を跳んでかわすのなら、膝を折って、つま先はできるだけ引っ込ませるはずだ。それなのになぜ。
不意に、布に風圧のかかる音がする。
見れば山崎は袴を翻して身体を大きく後方へ逸らし、それから両手を床へついて、見事に着地を決めたところだった。
…やられた。森野は覚えずも舌打ちをする。あの短い間に躊躇なくバック転を決めるとは。
しかし、森野の前方3メートルの位置まで退いた山崎も、同様に仕損じた顔をしている。

「…お師匠さん、やまちゃん読んでましたかね」
「あの速さで寄られたんでは、咄嗟の判断であんだけ膝落とすんは難しかろ。足元払ってくるんがわかっとったんじゃろな」
「で、あわよくば寄ってくる顎を蹴り上げようとした、と。なかなかやりますね」
「ふん、あんでもワシの弟子じゃけぇの。じゃが、そこを蹴り損なうようではな」
「まだまだですか」
「まだまだじゃの」

山崎にとっても、立ち合いは最大のチャンスだったのだ。
リーチで勝る相手にカウンターで一撃を加えるには、拳は使えないから、蹴るしかない。くそ、あと3センチ脚が長かったら…!!と山崎は思ったが、そこを悔やんでも仕方がない。
むしろ最初の踏み切りで必要以上に大きく後方へ跳びすぎたことが失敗だった。森野の踏み込みが思ったよりも速かったため、本能的に身体が逃げてしまったのである。
こうなると次の手は難しくなる。当てようとすれば必ず間合いに入ってくるはずだが…、それでもやはりリーチの差が障害になる。まともには行けない、森野がスキを見せるまで待たねばならない。やはり冒険せずに逃げ切りを狙うべきか。しかし…。


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