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「広島!? 何しに」
立浪は大層驚いた様子だった。無理もない。間に西宮が挟まっているため、名古屋から見た広島は、その実際の距離よりも遥かに遠い。
そのうえ、名古屋にとっては、軍事的にさほど重要でない都市だ。基地内では普段その名を耳にすることすら、あまりない。
わざわざそんなところへ、一体何を。しかしその疑問に対する答えは、井端ではなく、立浪の隣席から返ってきた。
「晩秋の広島、とくれば…、思い当たるのは、スラィリーかな」
そう言ったのは、これも立浪に次ぐベテラン、基地内での人望も厚い井上だ。
「有名だろ。秋の味覚、あるいは命がけの一攫千金、スラィリーハント」
「そう、それです。出稼ぎのつもりでしょう。森野は、自分の行いがビッグ・ドメの寿命を縮めるきっかけになったのではないかと、
 少し気に病んでいるようにも見えましたので」
井端のその言葉に、今度は井上が驚いた顔をする。
「まさか。そんなバカな話があるか。ありゃ元々ポンコツになったからここへお下がりになったんだ。そもそもジャンクみたいなもんだろうに。
 まあ、一年でイカレるとは予想外だったが、このところの酷使具合を考えれば別におかしくもない。
 あれがあるのとないのとじゃ、確かに戦力は大違いだが、元々なかった物なんだし…。無理に修繕費を用立てず、海外に売り渡すのが賢明だ。
 それに、その金でいろいろできることもあるだろう?」
「自分も、そう思うんですが…」
井上の言葉は、過日井端が森野に向かって言ったこととほとんど変わりない。


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