057
それから十数分後、基地の幹部数名を招集し、井端は緊急会議を持った。
「急に呼び立てて申し訳ない。が、皆も感づいているだろう」
各人の座る場所が決まっているにもかかわらず、座席にはひとつ空きがある。それを見て、傭兵隊長の中村紀洋が発言した。
「中佐。森野君がまだ来よらんようですが」
感づいているだろう、と言ったそばからのその質問に、井端は鼻から長い息を吐きつつ、今度はわかりやすく説明を始めた。
「…その森野が姿を消した。このさい軍の裁定がどうなるかとか、それに際して我々がとるべき対策とか、そういうことは今は考えない。
彼は必要な人材だから、東基地としてもこの状況下、みすみす軍法会議にかけて独房暮らしをさせる手はない。
だからできるだけ迅速に、失踪が上に知れないうちに連れ戻して戦線復帰させたいんだが…」
井端はそこで言葉を切った。ここから先は無茶を承知だ、しかし…。
「さしあたり、誰が行くか、その間どうすんのか、って問題があるな」
その先の発言に詰まった井端に代わって、ベテラン立浪が口を開いた。彼は階級こそ井端の下で命令を聞く身だが、軍務経験は基地で一番長く、修羅場をいくつも潜り抜けてきた、誰からも一目置かれる存在だ。
もちろん、その発言力も大きい。
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